修復工事中のバルジェッロ美術館(国立博物館)で開催されているダンテ(1265-1321)の特別展へ行ってきました。
ダンテ没後700年を記念するもっとも大規模な特別展は、フォルリというアドリア海側の街で開催されており、車でも公共交通機関でも片道2時間以上と、少し遠いので、まずは身近な地元開催の特別展に足を運びました。
バルジェッロ美術館がなぜダンテの特別展会場になっているかというと、バルジェロのポデスタ礼拝堂にもっとも古いダンテの横顔の肖像が描かれているからです。この肖像画は、ダンテと同時代人で親交があったといわれるジョットの工房で作られたフレスコ画です。


ダンテがフィレンツェから追放処分を受けたあとのローマ滞在時、ジョットも教皇庁の仕事でローマにいたことがあります。また、ジョットの代表作であるパドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂のフレスコ画制作のためパドヴァに滞在していたジョットの元を、ダンテが訪ねたといわれています。
ダンテの代表作『神曲』の煉獄編の中で、ついこの前まで高い名声を誇っていたチマブーエが今やジョットの前にかすんでいると、名声のはかなさをうたっていることからも、二人が狭いフィレンツェで親しい関係にあったことがうかがわれます。
そしてジョットとダンテ共にフランチェスコ会の在家信者でした。2人は宗教観や倫理観を共有していたのではないかと思います。
イタリア語の父と言われるダンテと西洋絵画の父と言われるジョットが同じ時代フィレンツェから出て文学と絵画の新しい世界を発信していたことはとてもユニークです。しかし、ダンテの後、ペトラルカ、ボッカッチョと、著名な文学者が続いたのと裏腹に、ジョットの死後の14世紀には、フィレンツェ絵画はジョッテスキと呼ばれる師匠ジョットのスタイルを因襲するにとどまる画家の活躍が目立ちます。
その中で、ルネサンスを先取りするかのような絵画を残しているのが、ジョッティーノと呼ばれる画家で、詳しいことはわかりませんが、ジョットが自身の息子を押しのけて後継者に選んだともいわれています。
Giottino, Public domain, via Wikimedia Commons
ジョットもダンテも、この親にしてこの子ありといわれるような才能ある子孫に恵まれていないところも共通しているように思います。
バルジェッロ美術館のダンテの特別展は、ジョバンニ・ヴィッラーニが残したダンテの伝記をたどる構成で、展示物のほとんどが貴重な1300年代の写本です。
ルーブル美術館、バチカン図書館、などからの資料もありますが、地元フィレンツェのラウレンツィアーナ図書館、リッカルディアーナ図書館、国立中央図書館などのものが多く、フィレンツェの古文書の豊富さを改めて認識させられました。
特に興味深く感じたのが、ミケランジェロ設計のラウレンツィアーナ図書館からの本で、図書館内の机に鎖でつながれていたその鎖がついたまま展示されていたことです。

そしてまだ修復、改装工事中のバルジェッロ美術館ですが、象牙の展示室がリノベーションされて見やすくなり、展示品も増えていました。そしてトイレが最新設備になり、より快適な美術館に生まれ変わろうとしています。地味ですが、世界に名だたるルネサンス彫刻のコレクションを誇る美術館です。

フィレンツェにお越しの際は、ぜひお立ち寄りくださいませ。
Museo Nazionale del Bargello
Via del Proconsolo 4, Firenze
Tel. +39 055 064 9440
月、水、木、日 8:45~13:30
金 8:45~18:00
土 8:45~19:00
火定休
2021.6.16

shinako

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