フィレンツェから、列車で約1時間半のルッカの街。
ここは、中世、コジモ一世が侵略をあきらめたルッカ共和国でした。
侵略戦争に費やされるであろう経費が見合わなかったという理由で、あえて戦いを仕掛けなかったといわれるています。
それを納得させられるのが、ルッカの街のシンボルの見事な市壁です。
現在残っているものは、1500年代に整備されたもので、町がもっとも栄えたとされる12~13世紀の後です。
メディチ家が、フィレンツェへの返り咲きのため、フィレンツェの隣町プラトーを襲ったのを目の当たりにし、市民一丸となって新しい頑丈な、大砲を使った包囲戦に対応した市壁を再整備したからなのです。
そして、トスカーナ大公国に取り込まれることなく、ヴェネツィア共和国同様、ナポレオンのイタリア侵略まで、自治を守ったことが今でも市民の誇りだそうです。
今では、かつて水をたたえていた周囲のお堀はグリーンベルト、市壁の上は遊歩道になっていています。
その周囲4.2キロメートル、10周するとほぼマラソンと同じ距離です。
春には野生の草花が咲き誇って、ボッティチェリの春を思い起こす、幸せな空間です。
市壁をくぐり、ユネスコ世界遺産の旧市街地に入ると、中世の舞台装置の中に町が息づいているような独特の雰囲気に出会えます。
この町に来て外せないスポットが多くのロマネスク様式の教会、とりわけ大聖堂、サンミケーレインフォーロ教会、サンフレディアーノ教会は、街を代表する見どころの多い教会です。
中に入ると、巡礼が盛んだった時代を彷彿させる磔刑のキリストや、ビザンチン様式の聖水泉など、1000年以上昔のものから、ロマネスクゴシック、ルネサンス、バロックと、信仰とその表現の変化を感じられます。
高いところに上がるのが好きな方は、グイニージの塔(塔の上に樫木が5本生えた独特の景観の塔)と、時計の塔。
市壁の街が見渡せます。
オペラ愛好家の方は、プッチーニの生家博物館と、彼の銅像と記念写真はいかがでしょうか?
プッチーニが代表作を執筆した別荘は、ルッカ県トッレ・デル・ラーゴにあり、博物館として見学でき、生前を偲ぶことができます(旧市街からは車で約30分)。
ルッカの歴史は大変古く、エトルリアの街の上に古代ローマが街を作りました。
かつての闘技場がそのまま広場になっているアンフィテアトロ広場も見どころのひとつ。周囲の建物の高さは、近代になって再整備されたのですが、かつての闘技場観客席の高さを想定して建設されたそうです。
ルッカのユニークでとってもうらやましい特徴が、ローマの遺跡に象徴される水道橋がないこと。
なぜなら、質の良い水源がすぐそばにあったので、わざわざ遠くから水を引いてくる必要がなかったからだそうです。
そのことを彷彿とさせる水路が街の東(観光スポットから少し外れたエリア)より今も流れています。
もう10年近く前、日本からお茶のデモンストレーションに来ていた方が、とてもおいしいお茶を提供されていたので、どうしてフィレンツェでこんなに美味しいお茶を入れることができるのか尋ねると、水源巡りをしたところ、ルッカ県に地元の水とほぼ同じ成分のところがあったので、そこから大量に汲んできたとのことでした。
悲しいことに、フィレンツェの水は、濾過しないと、日本茶の味は開かないのです。
古代ローマが滅んだあとも、教皇がいるローマとフランスを結ぶ巡礼道フランチェージナ街道の重要な街で、トスカーナ辺境伯の首都が置かれるなど、文化経済的に当時のヨーロッパの先端を行く存在でした。
豊富な水資源をもとに、絹の生産が盛んだったそうで、郊外には野生化した桑の木が多いのも、ルッカの特徴と聞きました。
街道筋の商都として栄えたルッカの豊かさを物語る象徴的な絵が、北方ルネサンスの大家、ヤンファンエイクが描いたルッカの商人夫妻の肖像画(『アルノルフィーニ夫妻像』)で、彼らの衣装は、今に直すと何千万の価値になるそうです。
『アルノルフィーニ夫妻像』の写真はこちらから
中世の細い見通しのきかない路地が続く街並みなので、私には何度も訪れているのに、迷いそうで不安になります。
煉瓦と石造りの建物でおおわれ、市壁でがっちり覆われているルッカ、観光にはいいですが、住むには窮屈ではないかと感じます。
ルッカでは、1500年代から1600年代、フィレンツェの脅威に備え、防御にお金を供出する圧力が高く、街中で贅沢ができなかったと聞きました。
そこで有力市民たちは、郊外の眺めの良いところにこぞって立派な別荘を建てたそうです。
そうした別荘のいくつかは、現在は、高級アグリツーリズモ、リゾートホテルとなっています。
そして、深い歴史に根差した食文化もルッカの魅力の一つで、ミシュランの星付きレストラン、推奨レストランがあり、この町ならではの伝統的な料理やお菓子がいろいろあります。
オリーブも有名なのですが、海と山を持つルッカ県は、豊富な食材がそろうグルメな土地柄です。
ヨーロッパの人たちから大変人気の高いルッカの街ですが、オフシーズンの冬場は、かなり寂しい風情になります。
緑が明るく輝き始める春先がおすすめです。
世界中の人であふれかえったフィレンツェから、この町に来るとほっと一息ついて、トスカーナの魅力を再認識していただけるのではと思います。
2020.1.15

shinako

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