イタリアもここ数日で新型コロナの感染者数が急激に伸びてきました。
先行き不透明なこの時期になぞらえて迷路、ラビリンスのお話です。
フィレンツェの西に位置するルッカ街、サンマルティーノ大聖堂の正面右側に迷路の浮彫があります。
その横にこの迷路が何を意味しているのかも彫られています。


古代ギリシャ神話でアリアドネが渡した糸巻きの糸をたどって、ミノタウロスを退治したテセウスが迷宮から抜け出せてこられたように、神(キリスト)がアリアドネの糸のように人生を導いてくださるということだそうです。
中世暗黒時代、古代ギリシャローマの多神教は否定され、キリストを唯一神として社会構造が確立していた時代に、ギリシャ神話を比喩に使って神の存在意義を説いていることに驚かされます。
無償の愛を説くキリスト、そしてアリアドネはテセウスを愛していたので、何とかラビリンスから無事戻れるようにと糸巻きの糸をたどるというアイデアを思いつき、彼に糸巻きを与えました。
無事ラビリンスから生還したテセウスは帰国の途中、アリアドネを島に置き去りにして別の女性と結婚してしまいます。
悲しみに暮れるアリアドネを酒の神ディオニソスが見初めて妻にします。
英雄とはいえ人間界の王子と神では別格。人間万事塞翁が馬というオチまでついたハッピーエンドの物語です。
人生の教訓として問題解決のためには、時としてリスクも負う覚悟と勇気を持たねばならない。
人生をうまくわたっていくためには知恵が必要。
愛に見返りを期待してはならず、愛が人生を導く。
そして塞翁が馬、先の見えない長い人生、現状ばかりを見て一喜一憂していても一寸先は闇。
キリストを人生におけるアリアンナの糸と例えている浮彫ですが、ギリシャ神話のその前後のお話まで見ていくと深い人生の教訓となるようで興味深いです。
ラビリンスは、ルネサンスからバロック時代の庭園装飾で重要な位置を占めていました。
かつてはメディチ家が作らせたボーボリ庭園や、プラトリーノの庭園にもラビリンスが複数作られていました。
ラビリンスを自分の人生に重ね合わせて物思いにふけりながら歩いたり、友達とゲーム感覚で楽しんだりしていたのではないかと思います。
ヨーロッパ文化では意外と重要で、深い意味と歴史のある迷路です。
2020.10.21

shinako

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2010年8月にこのラビリンスを観、今年2022年3月にシャルトル大聖堂のラビリンスを実際に歩いてきた、ラビリンスに興味を持つものです。ご存じだったらお教え願いたいことがあります。
古い話で恐縮ですが、2010年にサン・マルティーノ大聖堂に入って確か左側の壁(「ポルト・サント」の近く)にきらびやかに正装し騎乗した少女の絵がかかっていました。現在あるのかも定かではありませんが、この絵、マティルダを描いたものでしょうか?またそのいわれ等ございましたらそちらもお教え願いたいのです。
同じような構図の騎乗したマティルデの絵がヴェローナのカステルヴェッキョ美術館にある(ただしかなり歳を召したマティルダ)ことがわかりましたので、今月中に見てこようかと思っています。
残念ながら2022年8月後半の今回の旅行ではルッカ近辺には参れません。11月/12月のドニゼッティ・オペラ・フェスティバルの際に立ち寄れればと考えております。
コメントありがとうございます。
サン・マルティーノ大聖堂の左側の壁ですが、そのような絵画の記憶がなく、教会の見取り図を調べてみました。
左側は聖母マリアを主題にした絵画、18世紀のオーストリアとトルコの戦争を主題にした作品主題しか見当たらず、騎乗姿の少女の図象ではないようです。