現在、東京・上野の国立西洋美術館では、「ミケランジェロと理想の身体」展(2018年6月19日〜9月24日)が開催中。この展覧会を見て、あらためてミケランジェロ(1475〜1564)に注目された人も多いかと思われます。
そこで、フィレンツェで見ることのできるミケランジェロ作品について、簡単にご紹介しましょう。
第一は、なんといってもダヴィデ像(1504年)。
これは、フィレンツェの市庁舎(ヴェッキオ宮殿)正面入口脇に置かれています。巨人ゴリアテに、石をもって立ち向かうダヴィデの姿は、フィレンツェの守護神のようにも見え、身の丈は4メートルを超えます。ダヴィデは旧約聖書に登場する人物ですが、ミケランジェロのダヴィデは、「勇気をもって自由を勝ち取る戦士」(宮下孝晴氏)のようです。
ヴェッキオ宮殿前の広場がシニョーリア広場です。ダヴィデ像にもっぱら眼が向きがちなのは当然でしょうが、この広場には、英雄のヘラクレスがカクスという怪物を打ち据える「ヘラクレスとカクス」像やコジモ一世(メディチ家・初代トスカーナ大公)の騎馬像などが立ち並び、壮観です。
もっとも、ここに置かれているダヴィデ像は複製(コピー)で、実物は、市内のアカデミア美術館にあります。ヴェッキオ宮殿からアカデミア美術館までは、1キロくらいですから、歩いて行けます。ここでは、ミケランジェロの他の作品も見ることができます。
ヴェッキオ宮殿前のダヴィデは、複製ではあるのですが、元来はここに置かれていましたし、当時のヴェッキオ宮殿は、フィレンツェ共和国の政庁でしたから、ダヴィデ像はこの場所で見ることこそ、ルネサンス時代に思いをはせるのにふさわしいかもしれません。
ダヴィデ像の複製は、もう一箇所、ミケランジェロ広場にもあります。この広場は、フィレンツェの街並みを一望できる観光名所になっています。
第二は、メディチ家礼拝堂の新聖具室と彫刻。
サン・ロレンツォ教会の後ろ側に位置しているメディチ家礼拝堂にある「君主の礼拝堂」は、歴代のトスカーナ大公家の墓所で、世界各地から取り寄せた色大理石などを使った驚くほど豪華な空間です。そのすぐ近くにある新聖具室がミケランジェロの設計によるもので、その部屋にはミケランジェロ作の彫刻も置かれています。ただし、その彫刻には苦悩もみえます。ミケランジェロ自身は共和制をよしとしていたのですが、メディチ家はむしろ共和制に敵対する存在だったことに由来する苦悩でしょう。
この礼拝堂に隣接するラウレンツィアーナ図書館が、ミケランジェロの設計です。図書館への階段もミケランジェロの設計。
ミケランジェロというと、ヴァチカンにある天井画「最後の審判」や、ダヴィデ像から、画家であり彫刻家だと思われているかもしれませんが、建築家でもあったのです。
フィレンツェのミケランジェロといえば、以上の二つが絶対にオススメですが、さらに、第三にというなら、いくつかあります。
(1)ドゥオーモ(大聖堂)の脇にあるドゥオーモ付属美術館蔵の彫刻・ピエタ像です。ミケランジェロのピエタ像といえば、ヴァチカンはサン・ピエトロのピエタ像を思い出す人が多いでしょうが、ヴァチカンのピエタは、若き日のミケランジェロの傑作で、みずみずしさをたたえていて、思わず息を飲むほどです。それに対して、フィレンツェのピエタは、ミケランジェロ晩年の作。ミケランジェロの苦悩がうかがえます。
(2)加えて、ウフィツィ美術館所蔵の「トンド・ドーニ(ドーニ家のマドンナ)」という絵です。大きな作品ではありませんが、エネルギーにあふれています。
(3)この美術館のすぐ近くにあるヴェッキオ宮殿内の「五百人広間」には、フィレンツェが関わった戦争の絵をレオナルドとミケランジェロに競作させるという企画(1503年)がありました。これは、完成には至りませんでしたが、ヴェッキオ宮殿に入って、往事に思いをはせることができるかもしれません。
(4)ヴェッキオ宮殿のすぐ近くにあるバルジェッロ国立博物館には、ミケランジェロの彫刻「バッカス」があります。20歳ころの作品。
(5)なお、ブオナロッティ邸美術館には、ミケランジェロの初期の作品やデッサン類が展示されています。
もうひとつついでに。イタリア旅行をされる人は、フィレンツェとともにローマにも行くというケースが多いでしょう。
ローマのミケランジェロといえば、ヴァチカンはサン・ピエトロ寺院のシスティーナ礼拝堂にある天井画「最後の審判」であることはいうまでもありません。
もうひとつが上記のサン・ピエトロ大聖堂にあるピエタ像(サン・ピエトロのピエタ)でしょう。磔刑に処せられたイエスを膝に載せるマリアの姿。その聖母の帯には、「フィレンツェ人ミケランジェロ・ブオナローティがこれをつくる」という意味のことばが刻み込まれていて、ミケランジェロの「芸術家としての自立を打ち固めた作品」(アンソニー・ヒューズ『ミケランジェロ』)と評されています。
ローマの中心だったともいえるカンピドーリオの丘のカンピドーリオ広場もミケランジェロが設計したところ。コロッセオから古代遺跡のフォロ・ロマーノを通り、カンピドーリオ広場に至る道は、圧倒的な印象を残すところです。
2018.8.3

藤尾 遼

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