フィレンツェでは、2月14日のバレンタインデーから感染防止のオレンジゾーンになりました。飲食店はテイクアウトのみとなり、文化施設、美術館も閉館となってしまいました。そして、フィレンツェ市から出ることができなくなりました。
イエローゾーンの間に、シエナ県の講習でモンテプルチャーノへ出かけましたので、移動制限緩和期間を有効に過ごすことができました。
今回は、モンテプルチャーノってどんな街?ということを、研修で私なりに感じた視点で書かせていただきます。
モンテプルチャーノの歴史的記録は紀元前4世紀ごろまでさかのぼることができます。街の名称はモンテプルチャーノの近くのキウージを拠点にこの地域を治めていたエトルリアの王ポルセンナが由来ともいわれているそうです。
モンテプルチャーノの人や物のことをポリツィアーノ(フィレンツェの場合はフィオレンティーノ)と言うので、言葉の響きから何となく納得させられる説です。
エトルリアが古代ローマに支配されてから以降、ここは街道の守備のための軍の駐屯地となりました。
西ローマ帝国が滅び、ロンゴバルド時代に移ってからは、当時高い文化教養を身に着けていた修道僧など教会関係者が多くこの町に属しており、その他の住民も医者、彫金師など全体として高い文化水準にあったそうです。
そんな小さな文化都市に、周囲の2大共和国、シエナとフィレンツェが目を付け、街の有力ファミリーの対立も絡みあう政治的に不安定な時代がとなりましたが、経済的には発展しました。モンテプルチャーノは、13世紀にはシエナの支配下に入ったのち、15世紀にはフィレンツェの領土内に入りました。1390年から、フィレンツェ共和国と恒久的な同盟を結び16世紀半ばまで政治的に安定した文化的黄金期を迎えました。
フィレンツェ共和国も、ローマとフィレンツェを結ぶ街道の街の中で、一番ローマ寄りの要衝の街だったのでここを重視しました。影響力をシンボリックに表す意味合いもあってか、フィレンツェの芸術家達によって多くの建築、芸術作品が制作されていて、ルネサンス時代の名残を今にとどめています。

フィレンツェ共和国の外で最初にフィレンツェ・ルネサンス作品が制作された町でもあります。

そしてもうひとつのモンテプルチャーノの特徴が、教皇庁とのパイプの強さではないかと思います。メディチ家がシエナを支配し、トスカーナ大公国となり、モンテプルチャーノの戦略的重要性がなくなった後も、街の有力ファミリーは教皇庁の要職に就き、商業的・文化的影響力を維持し続けました。その象徴的な出来事が、16世紀の終わりに小さな街ながらカテドラルの称号を得て、グランデ広場に聖母被昇天大聖堂(ドゥオーモ)が築かれたことです。ファサード(正面)が未完成のままなので、外観はフィレンツェのサン・ロレンツォ教会と似ています。

街全体の建築物は、フィレンツェとローマの間という地勢、教皇庁とのパイプを持った有力ファミリーたちの存在を反映してか、フィレンツェの影響が強いながら、ローマ風のルネサンス建築の宮殿も多い感じです。小さい丘の上の街にも関わらず、立派の門構えの邸宅が多く、街の豊かさを感じさせます。
そして文化都市の象徴が、18世紀の終わりにかなり立派な劇場が建設されたことと、1930年から始まった民衆演劇が今なお続いていることです。
芸術ばかりでなく、歴史に根差した食文化も豊かな街です。街を代表するワイン、ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノがあります。ビステッカ・フィオレンティーナで有名なキアーナ牛、アリオーネとよばれる特大ニンニクもモンテプルチャーノのすぐそばのヴァル・ディ・キアーナ(キアーナ渓谷)が伝統的な産地となっています。オルチャとキアーナの2つの丘陵地帯の間に位置する地理的な条件もあり、イタリア統一後も常に豊かさを享受してきました。
街には歴史的な有名なカフェやミシュランの推奨レストランもあり、トスカーナの良さをコンパクトに味わうことができます。
さらに市壁の外には、メディチ家出身の教皇、レオ10世の命でアントニオ・ダ・サン・ガッロ・イル・ヴェッキオの最後の設計作品で、美しく、建築史的にも重要なマドンナ・ディ・サン・ビアージョ教会があります。バチカンのサンピエトロ大聖堂の建築モデル案の元となったといわれます。


街は、崖に近い丘の上に立地しています。研修で訪れた日は団体旅行者の工程も想定し、旧市街地の下にあるバスセンター集合だったので、そこからエレベーター(この日は故障して使えず)か階段で街の近くまで登り、さらにそこから坂を上がり、その近くのプラトー門からメイン広場のグランデ広場までひたすら上り坂です。


高台にある街だけに景色は大変美しく、かわいい小さな家とルネサンス建築の宮殿や教会が織りなす美しい町並みをのんびり楽しみながら歩けば苦にならないとは思います。ですが、時間に追われての観光では、坂の街で疲れたという印象で終わってしまうかもしれません。
フィレンツェからモンテプルチャーノ、ピエンツァ、モンタルチーノを1日で巡る日帰りツアーがあるのですが、文化的な見どころ、食文化、美しい景色と3拍子そろったこの地域を味わうには短すぎる印象です。近くの温泉地やワイナリー見学なども含めてゆったり1、2泊して観光するのが理想的だと再認識しました。
移動と宿泊が自由にできるようになることが待ち遠しいです。
皆様も体調管理に気を付けておすごしくださいませ。
2021.2.17

shinako

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