イタリアでは、地域の感染状況にかかわらず、全国ロックダウンに近い状況下でクリスマスを過ごしました。
家庭内では家族や親しい人たちでお祝いしているのだと思うのですが、町中深い眠りについているかのような静かな4日間でした。
唯一、深夜大型ヘリコプターの爆音で目がさめたのですが、後のニュースを見ると、トスカーナ最大の病院カレッジへワクチンを運ぶためのものだったようです。
日本ではクリスマスはイブとクリスマス当日で終わりですが、イタリアでは1月6日の東方三賢王の礼拝の日までがクリスマス期間です。ちょうど日本の学校の冬休みに近いです。
新型コロナで閉館中なので訪れることはできませんが、改装工事が終わって出迎え準備万端整ったフィレンツェのサンマルコ美術館に展示されている、ベアート・アンジェリコの晩年の代表作の一つ、銀器の戸棚の扉のうち、受胎から少年時代までのエピソードのパネルの絵で、キリストの幼少期のエピソードを追っていきたいと思います。

この作品の注文主はロレンツォ豪華王の父、痛風病みのピエロと呼ばれた人で、メディチ・リッカルディ宮殿内のベノッツォ・ゴッツォリ礼拝堂の直接的な注文主にあたる人物です。
パネルの見方は左上から右下に横書きの文章を読むのと同じようにご覧ください。
・新旧約聖書を統合したような、エゼキエルの神秘の輪
・受胎告知(3月25日)
マリア様が天使ガブリエルから神の子を宿すことを告げられた日。空には聖霊のシンボル白いハトが飛んでいます。
・キリスト生誕(12月25日)
厩で誕生したが聖キリストが聖母マリアと養父ヨセフから祝福を受けています。図象としては背景の厩には牛とロバが描かれます。
この作品ではキリストが光に包まれ、その天空ではまた光に包まれた天使たちが祝福しています。
・割礼(1月1日)
ユダヤ教では誕生の8日後に割礼を施す習わしがあるそうです。そこからキリストも割礼式を受けており、誕生から8日目にあたる新年がカトリック教会ではキリストが割礼を受けた日とされています。なんだか痛々しいですよね。
聖人カレンダーでは聖シルベストロの日です。
・東方三博士の礼拝(1月6日)
星の知らせで救世主の誕生を知った東方の3博士がヘロデ大王を訪れた後、キリストを見出して礼拝し、3つの貢ぎ物、乳香、没薬、黄金を捧げました。
フィレンツェではこの日かつてはメディチ家がプロデュースした大掛かりで華やかなパレードが行われました。
・神殿奉献(2月2日)
産後の清めが終わった40日後、キリストをエルサレムの神殿に捧げたエピソード。この時2人の預言者シメオンとアンナから幼子の将来の予言を聞きました。
・エジプトへの逃避(ヘロデ大王の死を知るまで)
救世主キリストを当時のユダヤの王ヘロデ大王が保身のため亡き者にしようとしている事を夢のお告げで知らされた養父ヨセフが、お告げに従い聖母子を連れてエジプトへ逃れるというエピソードです。(ヘロデ大王が亡くなったのは1月24日とされています。)
・嬰児虐殺(12月29日)
新たなユダヤの王がベツレヘムに誕生したとの予言を知ったヘロデ大王が、ベツレヘムの2歳以下の幼子を皆殺しにしたと伝えられるエピソード。
残虐なシーンは芸術家の創作意欲を刺激させるのか意外とこの場面を扱った作品は多いです。
・博士たちと議論するキリスト(3月末から4月ごろ)
12歳になったキリストが両親と過越祭(ユダヤの民がエジプトから脱出したことを祝うお祭り)に神殿に行き、そこにとどまり神学者と議論をしていたというエピソード。
キリストが誕生から少年として描かれている図相はざっとこのバリエーションです。
123センチ四方の中の8枚の絵でキリスト幼少期が美しくわかりやすく表現されています。
この続きの生涯の物語がすべてあったはずなのですが、残念なことに現存するものは35場面で、元は41場面あったといわれています。
当時多忙だったベアート・アンジェリコ自身の手になるものはこの最初のパネルで、後はベアート・アンジェリコの指示の下、当時弟子や協力者として活躍していたベノッツォ・ゴッツオリやアレッソ・バルドヴィネッティの関与、または彼らの作と考えられている作品が多くなっています。
とはいえ、シンプルにキリストの生涯をさらっと美しい絵でなぞることのできるユニークな作品です。
サンマルコ美術館には、有名な受胎告知のフレスコ画はもちろんですが、ほかにも素敵な作品が数多くあります。

この美術館の上階の僧房に描かれたフレスコ画を鑑賞する前に、さきほどのパネルでキリストのエピソードを頭に焼き付けておくと、より深くサンマルコ美術館をご鑑賞いただけます。

フィレンツェにいても作品がほとんど見学できない悲しい状況が早く終わることを願うばかりです。
皆様良いお年をお迎えくださいませ。

shinako

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