今年の秋、初めて、ワイン用の葡萄の収穫(ヴェンデンミア)を1週間体験しました。
友人のご主人は、先代から引き継いだ自家用ワインの葡萄畑と、管理委託を受けている葡萄畑を普段は一人で管理しています。
でも、収穫は短期間で一気に終わらせなくてはならないため、人手が必要です。近所の友人や親せきが手伝いに来てくれるそうです。
ご夫妻はお手伝いに人々のさし入れとして、昼食、畑での飲み物やおやつを提供します。3日前からラグー(ミートソース)を煮込んだり、準備も大変です。
マスカットなどの生食用葡萄も育てていて、これもみんなに配っていました。
葡萄の収穫は、葡萄の木を挟んで向かい合わせでペアになって摘み取っていきます。
そうすることによって、見逃しが減ります。また、複雑に絡まって収穫しづらい房も助け合って作業ができます。
さらに、おしゃべりしながら作業できるので、腰や背中の痛みも忘れることができるというメリットがあります。
小鳥が巣立った後の小さな巣の跡を見つけた喜びや、他愛ないおしゃべりは、何時間も続く作業を楽しくしてくれます。
蚊に悩まされ、背中の筋肉が悲鳴をあげる作業でしたが、助け合いながらおこなった収穫は、街の生活で失った何かを取り戻したような気がしました。
今は電話で気軽に長話できますが、昔はヴェンデンミアが皆の一年の近況報告の場にもなっていたそうです。
友人ご夫妻のヴェンデンミアは、そんなかつてのヴェンデンミアの風情が残った家族的なぬくもりが感じられました。
収穫した葡萄はすぐに家で除梗・破砕機にかけてタンクに入れます。
ご夫妻のワイナリーでは、翌日、白葡萄の皮をモスト(葡萄ジュース)から分離して、梗(房の枝の部分)と一緒に圧搾し、そのモストをタンクに戻していました。
ここで登場したのが年代物の圧搾機です。
ワイナリー見学に行くとよくオブジェとして展示されている手動の機械です。
日曜だったため、仕事が休みの息子さんが手伝いに来て、2人で作業していました。
でも、息子さんが手伝いに来ることはまれで、いつも一人でおこなうことが多いそうです。
エノロゴ(醸造家)によるモストの検査とアドバイスを受けて、発酵に備えていました。
エノロゴのカウンター奥の棚には、検品に持ち込まれたボトルがずらりと並んでいました。
トスカーナにはこのご夫妻のように小規模な作り手は、個人で醸造家を雇えないため、エノロゴはワインの診療所のような所でした。隣の窓口の男性は、モストの香りや味には問題ないのに発酵が進まない状況を相談していました。
今年は、天候の加減でご夫妻の畑では、白葡萄に引き続き黒葡萄も平日収穫することとなりました。
ご主人は1人で3人分の仕事をこなしながらも、夜は友達に収穫した生食用の葡萄を届けてお喋りを楽しんでいました。
ワインの発酵状態が安定し、半日程度だったら家を開けても大丈夫になると、気分転換に海を眺めにリボルノまで出かけました。
翌日はスポーツジムや趣味の射撃に出かけ、息子さんに頼まれた車の修理をすませ、自慢の料理をいろいろ作ってくださいました。
3日後には黒葡萄の圧搾作業を1人でおこなっていて、ほんのつかの間の小休憩のみでした。
葡萄の収穫から1か月間は、丸1日家を空けられないといっていました。
オリーブは摘み取って搾油所に持っていって容器に詰めて終わりです。でも、ワインは、摘み取り作業はオリーブより楽ですが、厳寒の中行う剪定から、常に管理が必要ですし、収穫後の発酵を管理(発酵で生じるガスによる爆発も起こりうる)と複雑な工程を経なければならず、大変な手間がかかります。
今回、ご夫妻のご厚意に甘えて、葡萄の収穫のお手伝いからアルコール発酵の様子まで1週間見学させていただいて、ワイナリーの見学では実感できなかったワイン造りの難しさと魅力を肌で感じました。「パッションがないとできないと」奥様がおっしゃることを身にしみて感じました。
ガイドの仕事のない今年ならではの貴重な経験の場を提供していただき、ご夫妻には感謝でいっぱいです。
2020.9.30

shinako

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