レオナルド・ダ・ヴィンチ ~その2~

レオナルドの絵画作品は、数としては多くありません。そして、それらの絵画作品は各地に点在しています。

レオナルドの「モナ・リザ」はパリのルーブル美術館に、「最後の晩餐」はミラノにありますから、フィレンツェでレオナルド作品を数多く見ることができるというわけではありません。

しかし、別の観点からすれば、フィレンツェで見ることの利点はあります。それは、ルネサンス期の他の画家たちの作品との比較ということです。

レオナルドの「受胎告知」(1475-85、ウフィツィ美術館)を見てみましょう。

Annunciation (Leonardo) (cropped)

Leonardo da Vinci, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

「受胎告知」は、多くの画家の描いたテーマで、フィレンツェにある有名な作品に、フラ・アンジェリコの「受胎告知」(1440年代前半、サン・マルコ美術館、フレスコ)があります。

Fra Angelico 043

Fra Angelico, Public domain, via Wikimedia Commons

レオナルドの「受胎告知」には、光背も控えめにしか描かれておらず、「現実」的です。
このレオナルド作品に描かれた天使の髪は波打ち、細かく描かれていますし、肩から腕にかけての精緻な衣紋(えもん)表現も特徴的です。

それは、この作品以前に描かれ、同じくウフィツィ美術館にあるベロッキオ(レオナルドの先生)の描いた「キリストの洗礼」(1472-75)のうち、レオナルドが描いたとされる、向かって左側の天使の髪や衣服の表現につながっています。

The Baptism of Christ (1472–1475), by Andrea del Verrocchio and Leonardo da Vinci. Uffizi Gallery, Florence

Andrea del Verrocchio, Public domain, via Wikimedia Commons

そして、のちの作品「モナ・リザ」(1503-06)の髪や衣紋にもつながっていきます。

ウフィツィ美術館には、ボッティチェッリの「春」(1482頃、テンペラ)と「ヴィーナスの誕生」(1485頃、テンペラ)も展示され、人気を誇っています。

レオナルドの「受胎告知」の天使の髪や衣紋と、ボッティチェッリの「ヴィーナスの誕生」あるいは「春」の髪や衣紋とを比べると、どうでしょうか。(さらには「モナ・リザ」のばあいとを、電子機器などで写真を見ながら比較してみてはどうでしょう。)

レオナルドの描写の繊細さが分かります。

ボッティチェッリのこれらの絵では、輪郭線が描かれ、彩色されていることも分かります。(ある漫画家さんは、輪郭線を使ったこの表現を「マンガ的」と述べています。別に、批判しているのではなく、表現の仕方の特徴を述べているのです。)

他方、ボッティチェッリ作品は、じつに鮮やかな印象がありますが、これは絵具の違いによる面があります。

「ヴィーナスの誕生」「春」では、テンペラが使用されています。
テンペラは経年劣化が少ないため、鮮やかな色彩が残るのです。(レオナルドの「最後の晩餐」でもテンペラが使用されましたが、これは「壁画」「設置場所」などの事情のため、作品の劣化が進んでしまいました。)

画材という観点では、ウフィツィ美術館にあるミケランジェロの絵画「聖家族」(1507頃)もじつに色彩鮮やかで、つい最近描かれたかのような錯覚をおぼえるほどです。

色の違いで立体感を出そうとしているのでしょうが、これは、油彩とテンペラを併用した作品です。

Michelangelo Buonarroti - Tondo Doni - Google Art Project

Michelangelo, Public domain, via Wikimedia Commons

レオナルドは、「受胎告知」を油彩で描き、その後の絵画も、油彩を中心にしています。

これらの作品の描写を行きつ戻りつ比較することができるのは、ウフィツィ美術館に入った際の特権ではないでしょうか。

加えて、フィレンツェでは、ウフィツィ、アカデミア、サン・マルコ、バルジェッロ、パラティーナなどの美術館が旧市街に(世界遺産の地域)に集中しているので、それらを歩いて見て回ることができるのです。

投稿者プロフィール

藤尾 遼
藤尾 遼
イタリア大好き人間。趣味は読書・旅行・美術鑑賞・料理(主にイタリアン)。「フィレンツェ・イン・タスカ」に不定期に寄稿。

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