カラヴァッジョの後世への影響
この連載の(その1)で、カラヴァッジョ作品《キリストの埋葬》は、「ルーベンスにはじまり、フラゴナール、ジェリコー、セザンヌにいたる幾多の画家たちによって模写されてきた」ことにふれました。ここで、後世への影響について、もう少し書いておきましょう。
カラヴァッジョの後世への影響 ベラスケス
ゴンブリッジ『美術の物語』(ファイドン)は、アルタミラとかラスコー洞窟の壁画から現代美術までを通観した著作で、初版は1950年刊行ですが、その後も読み継がれてきた世界的なベストセラーです。(日本語版は、第16版=1995年刊の翻訳、2007年)
この分厚い本の中のところどころに、カラヴァッジョの後世への影響のことに言及されています。
たとえばベラスケス(1599-1660)について、つぎのように書かれています。
ただし、ここに出てくる「自然主義」ということばには、やや独特の意味があります。その点について、ゴンブリッジは、この本の別のところで、つぎのように書いています。
ここに出てくる「自然主義」という観点からカラヴァッジョの作品をながめれば、納得できるところが多いでしょう。ゴンブリッジがここで直接に念頭に置いているのは、カラヴァッジョの《聖トマスの不信》という作品です。
この絵は、十字架にかけられたイエスが復活したとき、3人の弟子がイエスの傷口をみて、そのひとりトマスがイエスの傷口に指を突っ込むという場面(「ヨハネによる福音書」20章27による)を描いています。
Caravaggio, Public domain, via Wikimedia Commons
《聖トマスの不信》(1601-02年頃、ポツダム、サンスーシ宮殿、107×146cm)
そして、ゴンブリッジは、この作品とベラスケスの《セビーリャの水売り》(1619-20年頃、107×81cm)を比較しつつ、その共通性をものの見事に説明しています。
pelázquez, Public domain, via Wikimedia Commons
《セビーリャの水売り》(1619-20年頃、ロンドン、ウェリントン美術館、107×81cm)
この二つの作品を比較してみてください。
ここでいわれている「自然主義」は、「写実主義」と置き換えてもよいでしょう。この「写実主義」ということについて、カラヴァッジョは、すぐれた画家とは、「自然の事物をうまく描き、うまく模倣することのできる画家だ」と持論を述べたとのことですが、宮下規久朗氏の『カラヴァッジョへの旅』(角川選書、2007年、120頁)にしたえば、「これはカラヴァッジョの唯一の肉声にして、史上はじめての写実主義のマニフェストとなった」ということになります。
カラヴァッジョの後世への影響 レンブラント、クールベ
ゴンブリッジ『美術の物語』は、カラヴァッジョのレンブラント・ファン・レイン(1606-69)への影響にも言及しています。
ちなみに、ここでゴンブリッジが直接に言及しているレンブラント作品は、《教えを説くキリスト》(1652年頃)というエッチングです。ただ、このエッチング作品は、ネット上で手早く見つけるのは難しいかもしれませんが。
ネット上ですぐに見つかる写真という点でここに紹介するなら、ゴンブリッジは、クールベ(1819-77)の《出会い(こんにちは クールベさん)》をあげています。
Gustave Courbet, Public domain, via Wikimedia Commons
《出会い(こんにちは クールベさん)》(1854年、ファーブル美術館、132×150cm)
ただし、ゴンブリッジはここで、「どこかしらカラヴァッジョに似ていた」としているだけですが。
2021.2.13

藤尾 遼

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