「カナレットとヴェネツィアの輝き」展を観る

 東京・新宿にあるSOMPO美術館で、「カナレットとヴェネツィアの輝き」展(2024年12月28日まで)が開催されています。

 ヴェネツィアについては、オーバーツーリズムが問題となって久しく、訪問者・旅行者への観光税も話題になっています。

 私は、ヴェネツィアには数日しか滞在したことがありません。しかも20年近く前です。その滞在時、島内のあちこちを歩き回り、「迷宮都市」を堪能しました。今回、カナレット(1697-1768)が描いたヴェネツィアの景観画を見て、自分がそこに出かけて楽しんだ風景がまざまざとよみがえり、懐かしいという感じを強くしました。

 ヴェネツィアの魅力は数え上げたらキリがありませんが、まずは建築群の美しさでしょう。その建築群が街の中に張りめぐらされた運河とともに目に映る光景。思わず息を呑み、感嘆の声を上げる。

 また、ヴェネツィアのレガッタなどの祝祭行事に湧く光景を描く絵もあって、その高揚感が伝わってくるようです。

 そういうヴェネツィアの景観や祝祭空間の一端を伝えてくれるカナレットの景観画を、今回の展覧会で楽しむことができます。

 一部の作品を除いて、写真撮影もできますので、少し写真を撮りました。

カナレット

 これは、「昇天祭、モーロ河岸のブチントーロ」(1760年)という作品で、ヴェネツィア共和国における昇天祭(復活祭後40日目に催行)の様子を描いています。ブチントーロとは、総督用のガレー船のこと。この絵の右側に大きく描かれているのが、総督の邸宅・ドゥカーレ宮殿。

 けれど、今回の展覧会の展示作品の説明を読むと、カナレットの描いたヴェネツィアの景観は、必ずしも現実の景観を写真のように写しているわけではなく、いろいろな角度から見た景観を組み合わせたり、空想上のものがあったりすると説明されています。

 いわば、景観の「いいとこどり」をしているわけです。

 ですから、この展覧会では、カナレットの景観画と、かれが描いた場面の写真を並べて、一種の「間違い探し」ができるようになっている展示部分もありました。実際の景観と異なるところを探してみるのも楽しいかもしれません。

 今回の展覧会では、カナレットの版画と素描も展示されています。そういう素描のうえにかれの景観画が描かれている。その様子をうかがうことができる点も興味をそそります。

 カナレットの絵が描かれた当時は、イギリスの貴族たちが、教育の仕上げとして、数か月あるいは数年にわたってフランスやイタリアに滞在することが盛んでした。これを「グランド・ツアー」といいますが、ヴェネツィアはその人気スポットでした。そのため、カナレットの景観画はイギリス人におおいに愛好され、人気を博した。こういう関係があり、カナレットはイギリスにも行き、ロンドンの景観などを描くことになった。そして、カナレット作品はイギリスに数多く残された次第です。その一端も、今回のカナレット展で鑑賞できるようになっています。

 今回の展覧会では、カナレットと同時代の画家やその後継者たちの景観画も展示されています。カナレットの影響もあるでしょうが、ヴェネツィア自体の魅力があればこそ、後継者たちも登場したはずです。

 さらに時代がくだっても、ヴェネツィアの魅力に惹かれる画家は数多く、そのひとりに印象派のモネがいて、今回の展示では、モネの作品も展示されています。これは、カナレット作品とはずいぶん趣が異なりますが、ともにヴェネツィアの魅力を伝えてくれます。

投稿者プロフィール

藤尾 遼
藤尾 遼
イタリア大好き人間。趣味は読書・旅行・美術鑑賞・料理(主にイタリアン)。「フィレンツェ・イン・タスカ」に不定期に寄稿。

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