疫病と絵画(その2) ペスト、聖セバスチャン
フィレンツェで見る聖セバスティアヌス
前回ふれたマクニール『疫病と世界史』に、
「ペストの予防を目的とするカトリクの儀式では、聖セバスティアヌスへの祈りが中心となった。矢に射抜かれた瀕死の聖人は、その死がペスト感染の見えざる矢による死の象徴とされ、宗教芸術でも描かれることが多くなった。」(下・60ページ)
とあります。つまり、ルネサンス成立の前のペスト流行と関連して、聖セバスティアヌス(聖セバスチャン)が、ペストに対する守護聖人とされたというのです。
聖セバスチャン(伝承では、287年1月20日没)を描いた絵は、フィレンツェでも見ることができます。ウフィツィ美術館にはペルジーノの作品があります。ラファエロは、このペルジーノ(1448頃-1523)の弟子でした。

ペルジーノ《聖セバスティアヌス》(1493年、ウフィツィ美術館、178×164cm)
また、ピッティ宮殿にある美術館には、ソドマ(1477-1549)の作品《聖セバスティアヌスの殉教》があります。

(1525年、フィレンツェ、パラティーナ美術館、206×154cm)
むろんこれは、若干の例にすぎず、イタリアの美術館が所蔵する聖セバスティアヌスの絵だけでも、180点を超えるという石坂尚武氏の調査もあるほどです。
聖セバスティアヌスと聖ロク
マクニール『疫病と世界史』では、上に引用した箇所のすぐ後ろに、次のように書かれています。
「もう一人重要な聖人は聖ロクである。彼は聖セバスティアヌスとは全然性格の違う聖人で、公的な慈善行為と看護活動のお手本であり守護聖人だった。そうした行いは、ペストに曝されることの最も多い地中海ヨーロッパの諸都市で、ペスト流行の打撃を和らげるものだった。」
この聖ロク(ロクス、1295-1327。ラテン語Rochus、イタリア語Rocco、英語Rock)を描いたロレンツォ・ロット《聖母子と聖ロクス、聖セバスティアヌス》もウフィツィ美術館で見ることができます。

(1522年頃、ウフィツィ美術館、80×70cm)
聖母の左右に聖ロクスと聖セバスティアヌスが配されていますが、どちらが聖ロクスであるかは、上の説明をふまえればすぐに分かります。
聖セバスティアヌスを描いた作品で、フィレンツェに比較的近いところにあるのは、シニョレッリ(1450頃-1523)の《聖セバスティアヌスの殉教》です。

(1498年、イタリア・ウンブリア州、チッタ・ディ・カステッロ市立絵画館、288×175cm)
ルーベンスとエル・グレコ
聖セバスティアヌスを描いて印象深い作品は、むろんイタリア以外でも見ることができます。
フィレンツェ生まれの画家、ボッティチェッリ(1445-1510年)が描いた《聖セバスティアヌス》は、今はベルリンにあります。

ボッティチェッリ(1474年、ベルリン、絵画館、195×75cm)
同じくベルリンにあるのは、ペーター・パウル・ルーベンス(1577-1640)の《聖セバスティアヌス》。

ルーベンス《セバスティアヌス》(1614年頃、ベルリン、絵画館、200×120cm)
エル・グレコ(1541-1614)にも《聖セバスティアヌス》があります。

エル・グレコ《セバスティアヌス》(1610-14年頃、プラド美術館、201×111cm)
こんな具合に、いろいろな美術館に聖セバスティアヌスを描いた絵画が伝えられていて、ヨーロッパにおけるペストの脅威を今に伝えています。
投稿者プロフィール

- イタリア大好き人間。趣味は読書・旅行・美術鑑賞・料理(主にイタリアン)。「フィレンツェ・イン・タスカ」に不定期に寄稿。
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