ジョルジョーネの絵「男性の肖像」

 東京・上野の西洋美術館で「西洋絵画、どこから見るか? ルネサンスから印象派まで」展を見ました。(2025年3月11日〜6月8日。その後は、京都に巡回)

 ごく一部だけですが、紹介します。

展覧会入り口で

 今回の展覧会は、西洋美術館(NMWA)とアメリカのサン・ディエゴ美術館(SDMA)の、それぞれの収蔵品から「作品をどのように見ると楽しめるか」という観点から企画されたようです。

 会場入り口には、マリー=ガブリエル・カペの「自画像」の大きなパネルが掲示されています。(写真はこのパネル)

 この展覧会は、なにしろ「ルネサンスから印象派まで」と銘打たれているだけあって、盛りだくさん。

 展示は、「第1章 ルネサンス」から始まり、それが「ゴシックからルネサンスへ」「ヴェネツィアの盛期ルネサンス」「北方ルネサンス」と区分されています。

 ひとむかし前と異なり、フラッシュをたかなければ写真撮影が認められていますので、少し写真を撮りました。ただ、会場の照明の関係もあって、必ずしもきれいには撮れませんでした。(以下、写真はすべて藤尾撮影)

マリー=ガブリエル・カペ(1761-1818)「自画像」1783年頃、NMWA

 今回の展覧会のポスターにも使われているこの絵。描かれている女性のなんと美しいこと、とは思っていましたが、作者名は知りませんでした。ですが、作者名を見ると、ファーストネームが「マリー」なので、女性。表現が適切でないかもしれませんが、「女流画家」の作品です。描かれたのが1783年ごろだとすれば、彼女がまだ22歳くらいのときの作品ということになります。女性が描いた作品だと思ってみれば、納得できる描き方だという気持ちにつつまれました。

ジョルジョーネ「男性の肖像」

 今回の展覧会で私がぜひ見たいと思っていたのは、ジョルジョーネ「男性の肖像」です。

ジョルジョーネ(1477頃-1510)「男性の肖像」1506年、SDMA、30cm×26cm

 私は、エルンスト. H. ゴンブリッチ(1909-2002)の『美術の物語』を愛好しています。ゴンブリッチは、ウィーンに生まれ、ナチスを避けてロンドンに移った美術史家です。この本の初版は1950年。その後、16版まで改訂版が出ました。全世界で数百万部売れ、美術書最大のベストセラーだそうです。アルタミラやラスコーの洞窟壁画から現代美術までを通観するもので、図版と解説とが相まって、説得的な論が展開されています。

 この本の16章は「光と色彩 ヴェネチアと北イタリア」と題され、フィレンツェのルネサンスの画家は「均衡のとれた完璧な構図によって新しい調和を完成させた」のに対し、ヴェネツィアの画家は「光と色を楽しそうに使って画面に統一感を出した」と論じています。ゴンブリッチはこの章での絵画についての説明の最初に、ベッリーニの絵画「聖母子と聖人たち」を登場させていますが、その傘下から出たのが、ジョルジョーネとティツィアーノだというのです。そして、ジョルジョーネの絵画「嵐」(1508年頃)についてやや立ち入って説明しています。

 そんなにも高く評価されているヴェネツィア派の代表者のひとりジョルジョーネの描いた作品をぜひ見たいものだと思い、この展覧会に出かけたのでした。今回展示された「男性の肖像」については、ゴンブリッチは何も述べていませんし、この作品のサイズは小さいのですが、私はこの作品に十分満足しました。

 なお、今回の展覧会の紹介リーフレットには、ジョルジョーネが「肖像画に魂を吹き込んだ謎の画家」とされています。「謎の画家」というのは、その生涯に不明な点が多いという意味でしょうが、「肖像画に魂を吹き込んだ」と高い評価をしているといえるでしょう。

カラヴァッジョ派

バルトロメオ・マンフレーディ(1582-1622)「キリスト捕縛」1613-15年頃、NMWA

 

 この展示会の「第2章 バロック」の部でこの絵に接したとき、カラヴァッジョを連想しました。

 カラヴァッジョといえば、迫力ある画面、緊迫の瞬間をとらえた絵が少なくありませんが、そのカラヴァッジョのスタイルを継承しようとする画家たちが生まれ、カラヴァッジョ派というそうです。バルトロメオ・マンフレーディもそのひとり。

 カラヴァッジョの影響力の大きさがしのばれます。

「空想のローマと現実のヴェネツィア」

 今回の展覧会の「第3章 18世紀」の部の構成のひとつに、「空想のローマと現実のヴェネツィア どちらを旅する?」というのがあります。その中に、「現実」のヴェネツィアを描いた作品が2点、「空想」のローマ景観を描いた作品が2点含まれています。

フランチェスコ・グアルディ(1712-93)「南側から望むカナル・グランデとリアルト橋」1775年頃、SDMA

 ヴェネツィアの運河(カナル・グランデ)にかかるリアルト橋の光景です。ここは、ヴェネツィアでも特に印象深い場所のひとつでしょうが、現在の光景と大きくは違わないことを改めて印象づけられます。

ユベール・ロベール(1733-1808)「モンテ・カヴァッロの巨像と聖堂の見える空想のローマ景観」1775年頃、NMWA

 今回の展覧会のユベール・ロベール作品には「マルクス・アウレリウス騎馬像、トラヤヌス記念柱、神殿の見える空想のローマ景観」もあります。

 「空想のローマ景観」は、実際には別々の場所にあるものを組み合わせて描かれているそうで、部分的に見れば「空想」というわけではありません。

 ユベール・ロベールはフランス人。ローマに長く滞在し、イタリア各地にも旅し、フランスに戻った経歴があります。イタリアの景観を思い出しつつ絵の構想を練ったのでしょう。

 いずれにしても、かつて旅したヴェネツィアやローマをまた訪れたいという気持ちをかき立ててくれる展覧会でした。

投稿者プロフィール

藤尾 遼
藤尾 遼
イタリア大好き人間。趣味は読書・旅行・美術鑑賞・料理(主にイタリアン)。「フィレンツェ・イン・タスカ」に不定期に寄稿。

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