3月25日は、聖母マリア様が、天使ガブリエルから、神の子を宿したとお告げをいただいた日。
フィレンツェはこの日が新年となっていました。
信仰を集める受胎告知の壁画が祭られているサンティッシマ・アンヌンツィアータ教会まで時代行列が行われ、増え始めた観光客とともに、いにしえの新年を祝うのが通常のフィレンツェなのですが、今年はコロナウイルスの影響で、厳しい外出禁止令のもと、この日を迎えることになりました。
フィレンツェは受胎告知が新年だったこともあってか、多くの受胎告知の名画があります。
その中でも私のお気に入り3作品を時代順にご紹介します。
1つめは、サンマルコ美術館にある、ベアート・アンジェリコの受胎告知(1442年頃作)。修道院の共有スペースから僧房のある2階に上がる階段の踊り場から上を見上げると、真正面に目に飛び込んでくる受胎告知の場面は、あまりにも有名です。
信仰心があつく、皆に慕われたという画家の心を映すような、神妙で静けさに包まれた作品に感じます。
2つめは、ウフィツィ美術館に展示されているボッティチェリのフレスコ画の受胎告知(1481年頃作)。
彼の代表作の「春」が展示されている部屋の左手一面の大きなフレスコ画です。
ボッティチェリ独特のドラマチックで勢いのある、映画のワンシーンを切り取ったような斬新な構図、まさに聖母の前に降り立とうとする天使ガブリエルの姿が衣に空気を含んで膨らみ、底を漂う風まで感じられるように描かれています。
ボッティチェリがローマのシスティーナ礼拝堂の壁画制作メンバーに選ばれる前の作品です。
写実性とか遠近法とか、お堅いことは度外視に、魅せられる作品です。
そして、3つめは、COVID-19で不安に包まれた今になんともしっくりくる世界観を持った画家、ポントルモが描いた受胎告知(1527年頃)。
ベッキオ橋を左岸地区にわたってピッティ宮殿に向かう途中、左手にあるサンタ・フェリチタ教会、入ってすぐ右のカッポーニ家のチャペルに描かれたフレスコ画です。
このチャペルの祭壇画、十字架降下も彼の代表作でとても魅力的な絵画なのですが、この状況で鑑賞するのはちょっと重たい感じがします。
それに比べて、受胎告知のフレスコ画は、ポントルモ独特の明るく光り輝くような美しい色彩に包まれ、聖母の背後にまさに降り立とうとする天使ガブリエル、その気配に振り向いた聖母マリアを感情の動揺なく描き出しています。
メランコリックな現実離れした色調、足の指先に見られるデッサン力の確かさ、ドラマチックな構図にもかかわらず穏やかな静けさ。
少年時代に両親と死別、その後、彼の面倒を見ていた祖父母、兄弟とも死別し、天涯孤独となり、死を極端に恐れ、不安症を抱え弟子ブロンヅィーノ以外ほとんど交友がなかったといわれています。
メディチ家に気に入られ、サンロレンツォ教会の天井画、別荘の壁画などフレスコ画を多く描いたのですが、残念なことにその多くが失われてしまっています。
1日も早くこれらの作品を鑑賞できることを願っています。
2020.3.25

shinako

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